こんにちは。
ライフパフォーマンスコーチの前田です。
くまスポでは「フィットネスの向こう側」をテーマに、運動・栄養・休養を通じて、魅力的で快適で丈夫な身体、そして人生そのもののパフォーマンスを高めるための情報を発信しています。
このブログでは、「睡眠を良くすること」だけを目的にするのではなく、睡眠やリカバリーを通して、仕事や趣味、家族との時間をもっと充実させるための考え方や実践法をお届けします。
前回は、夕食の時刻や量、カフェインやアルコール、朝食、腸内環境など、「何を食べるか」だけではない食事と睡眠の関係をお伝えしました。
今回のテーマは「睡眠圧」です。
夜になっても眠くならないと、「今日は早く布団に入ろう」「少しでも長く横になっておこう」と考えがちです。
しかし、自然な眠気は、寝床に入ってから急につくるものではなく、朝起きてから、日中をどのように過ごしたかによって少しずつ育っていくものなのです。
眠気は夜につくるのではなく、昼に育てるのです。
私たちの睡眠は、大きく二つの仕組みに支えられています。
一つは、朝と夜のタイミングを整える「体内時計」。もう一つが、起きている時間に応じて高まる「睡眠圧」です。
睡眠圧は「眠気の貯金」のようなものです。十分に眠った朝は低く、起きている時間が長くなるほど高まり、眠ることで下がります。
ただし、睡眠圧と「疲労感」は同じではありません。一日中パソコンに向かい、判断や緊張を重ねると、頭は疲れているのに身体はあまり動いていないことがあります。これが「疲れているのに眠れない」状態の一因です。
日中を適度に活動し、夜までしっかり起きて過ごす。すると、体内時計が眠りへ向かう時間帯と睡眠圧の高まりが重なり、自然な眠気が訪れやすくなります。

朝に目覚め、日中を活動的に過ごす。その積み重ねが、夜の自然な眠気につながります。
翌朝に大切な会議や試合があると、「普段より早く寝よう」と考えます。
しかし、十分な睡眠圧がたまっていなければ、早く寝床へ入ってもすぐ眠れるとは限りません。
眠れずに時計を見て焦る時間が続くと、寝床が「眠る場所」ではなく、「眠ろうと頑張る場所」になってしまいます。
睡眠は、残念ながら、寝床にいる時間に比例して増えるものではありません。
眠気を感じてから寝床へ入り、朝は必要な睡眠時間を確保しながら、なるべく一定の時刻に起きる。
「早く横になる」より、「眠れる条件を日中から整える」ことが重要です。
ただし、誤解してはいけないのが、これは睡眠時間を意図的に削るという意味ではないということ。
強い眠気があるのに我慢して起き続けたり、自己流で極端な睡眠制限をしたりすることは避けましょう。
睡眠のための運動というと、「激しく動いて、身体を疲れさせれば眠れる」と思われるかもしれませんが、運動の役割は、もちろん、単に疲労を増やすことではありません。
適切な身体活動は、日中の覚醒と夜の休息にメリハリをつけ、睡眠の質を支えます。研究でも、習慣的な運動は、主観的な睡眠の質や寝つきなどの改善と関連しています。
また、睡眠はトレーニングの外側にあるものではありません。
運動で刺激を入れ、食事で材料をとり、休養の中で回復する。その流れによって身体は適応します。「運動するために眠る」と同時に、「より良く眠るために動く」。睡眠と運動、さらに食事。これらは相互に影響を与え合う関係です。
ただし、毎回追い込む必要はありません。運動習慣のない方も、高強度のトレーニングから始める必要はないのです。
● 昼休みに10~15分歩く
● 一時間座ったら、一度立って身体を動かす
● 週に数回、ウォーキングや筋力トレーニングを行う
小さな活動でも、日中と夜のメリハリをつくる材料になります。
なお、夜の運動がすべて睡眠を悪くするわけではありませんが、就寝直前までの激しい運動は、人によっては寝つきを妨げます。
夜しか運動できない方は、強度、終了時刻、クールダウンを調整し、寝つきと翌朝の状態を観察してください。
午後にどうしても眠くなったときは、パワーナップと呼ばれる20分程度の短い昼寝によって、覚醒度や作業効率が回復することがあります。昼寝そのものが悪いわけではありません。
ただし、夕方以降に長く眠ると、日中に高まっていた睡眠圧が一部下がり、夜の眠気が弱くなることがあります。
昼寝は、いわば夜に使う眠気を先に少し使う行為です。夜の寝つきに問題がない方は活用して構いませんが、寝つきに時間がかかる方は、次の点を確認してください。
● 昼寝が夕方にずれ込んでいないか
● 30分以上昼寝する日が続いていないか
● 休日だけ昼近くまで二度寝していないか
昼寝をするなら、前述のように、午後の早い時間に20分程度までを目安にします。
昼寝後のぼんやり感が長い、夜の寝つきが悪くなる方は、さらに短くするか、いったん休止して変化を見ましょう。
眠気が非常に強く、仕事中や運転中にも耐えられない場合は、昼寝の工夫だけで済ませず、睡眠不足や睡眠障害の可能性も考える必要があります。
忙しい日ほど、帰宅後は何もせず横になりたくなるものです。
もちろん、休息は必要です。
ただし、疲れるたびに寝床へ入り、メールを見たり、動画を見たり、考え事をしたりしていると、「寝床の中で起きている時間」が増えていきます。
そこで、「休む場所」と「眠る場所」を分けてみてください。
椅子で呼吸を整える、軽くストレッチする、照明を落として音楽を聴くなど、休息の選択肢を寝床以外にも持ちましょう。
日中ずっと頑張り続けるという意味ではありません。必要な休憩をとりながら、活動と休息の境界をつくることが、自然な眠気を守ります。
明日から、次の三つを一週間試してみてください。
1.朝はなるべく同じ時刻に起きる
2.日中に合計20~30分、歩く時間を増やす
3.昼寝は午後の早い時間に短くとり、夕方以降のうたた寝を避ける
すでに運動習慣がある方は、運動の有無だけでなく、行った時刻と強度も記録します。
そして、夜は「何時に寝床へ入ったか」だけでなく、
● 寝床へ入ったときに眠気があったか
● 寝つくまでの体感時間はどうだったか
● 翌朝、どの程度回復感があったか
を振り返ってみましょう。
睡眠も運動と同じように、実行して記録し、反応を見ながら調整すると、自分に合う方法が見つかります。
仕事の時刻、運動歴、体力、家族との生活リズムは一人ひとり異なります。
私の睡眠セミナーでは、「自分はどこから変えればよいのか」を生活全体から考え、運動・栄養・休養を続けられる形へ落とし込みます。
最近では睡眠の状態を測ることができるウェアラブル端末の精度も格段に上がり、自分の睡眠状態を分析できる環境が整ってきています。
テクノロジーと主観を擦り合わせながら、ご自分の睡眠状態を見つめ直してみましょう。
夜の眠気は、夜だけを工夫してつくるものではありません。
朝に起き、日中に身体を動かし、長すぎる昼寝や夕方のうたた寝を避け、眠気が高まったところで寝床へ入る。その積み重ねによって、睡眠圧は育っていきます。
「疲れている」と「眠れる」は同じではなく、頭だけが疲れて身体は動いていない、眠気のないまま長く寝床にいる。良かれと思う行動が、眠りを遠ざけることもあります。
眠れない夜だけを反省せず、起床時刻、活動量、昼寝、寝床で過ごした時間まで含めて一日を見直してください。しっかり起きることは、休まないことではありません。活動と休息を分け、「起きる力」と「眠る力」の両方を引き出すことです。
今夜の眠りは、今日の昼間から始まっています。
まずは明日、昼休みに日光を浴びて10分散歩することから始めてみましょう。
※十分に眠っても強い日中の眠気が続く、強いいびきや呼吸停止を指摘される、睡眠の問題で生活に支障がある場合は、医療機関へご相談ください。
● 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
● Borbély AA, et al. The two-process model of sleep regulation: a reappraisal. Journal of Sleep Research. 2016.
https://doi.org/10.1111/jsr.12371
● Kredlow MA, et al. The effects of physical activity on sleep: a meta-analytic review. Journal of Behavioral Medicine. 2015.
https://doi.org/10.1007/s10865-015-9617-6
● Stutz J, et al. Effects of Evening Exercise on Sleep in Healthy Participants: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine. 2019.
https://doi.org/10.1007/s40279-018-1015-0
● Edinger JD, et al. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2021.
https://doi.org/10.5664/jcsm.8986
日中に睡眠圧を高めても、仕事の緊張を引きずり、心身が活動モードのままでは自然な眠気に乗りにくくなります。また、「早く眠らなければ」と意識するほど、頭がさえることもあります。
次回は、
● 夜の照明とスマートフォン
● 入浴と体温の変化
● 呼吸法や筋弛緩法
● 仕事から休息へ切り替える方法
● 自分に合ったナイトルーティンのつくり方
などについてお伝えします。
眠りは、力ずくで起こすものではありません。眠りを邪魔する刺激を減らし、身体と心を休息へ近づける方法を一緒に考えていきましょう。
意志のみではどうにもならない事柄には、環境整備やルーティンで対策しましょう。
● 第23回 睡眠を改善する5つのアプローチ
● 第24回 ①睡眠環境を改善する
● 第25回 ②朝の目覚めを改善する
● 第26回 ③快眠につながる食事と腸内環境をつくる
● 第27回 ④睡眠圧を高める(今回)
● 第28回 ⑤夜のリラックス習慣をつくる
● 第29回 5つのアプローチをどう使い分けるか
魅力的で快適で丈夫な、ワンランク上の身体づくりを通じて、人生のパフォーマンス向上をサポートしています。
『くまスポ』代表/ライフパフォーマンスコーチ/運動指導者/トレーナー養成講師/睡眠リカバリーコーチ
一般の方から経営者・管理職層まで、幅広い年代の身体と向き合ってきた経験をもとに、「フィットネスの向こう側」を理念として掲げ、運動を通じて仕事や人生を支える身体の在り方を考え、さらにその先にある健康で幸せな人生を追求し、活動しています。